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児童文学 ときどき アイドル

『トーキョー・クロスロード』

トーキョー・クロスロード

濱野京子 ポプラ社 2008/11 第25回坪田譲治文学賞受賞

 

2008年当時は最先端だったであろう小道具が、時を経るにつれ古臭くなっているのが残念なのだけれど、描かれている物語は、高校生の恋愛の普遍的要素が網羅されているのではないかと思える。

主人公の性格を表してか、語り口調は全編にわたり一定の調子で抑え気味で地味め。にもかかわらず、読者をグイグイ引っ張って最後まで一気に読ませてしまう迫力と魅力がある。

 

主人公は高校二年生の栞。

休日には山手線の中の適当な駅を選び、降りてみて、学校にいる自分とは別人のように変装して街角探検をするのが趣味だ。

ちょっと変わった子だな、と思うその趣味には、意外な理由があった。

読み進めるうちに、感情をあまり表に出さない栞の心の内側を垣間見ることができるのが楽しい。

 

私は、山田詠美さんの『放課後の音符』が心身深くに浸透している世代なので、この本も、実のところ、小道具を使い時代を新しくした『放課後の音符』であるように思えてしまう。

見た目の可愛い女の子を大好きな男の子、地味な女の子の焦燥、年上の女性に夢中になる男の子、恋と友情、男の子の衝動、ふいに飽きる恋、ふいに気づく恋。

そんなこんなが共通していると思うけれど、これらはみな青春恋愛小説の大事な要素なのかもしれない。

山田氏の描き方がおおらかで鮮明で開放的であるのに対し、濱野氏の描き方は淡々としてやわらかな中間色の雰囲気で、どちらも素敵で素晴らしい。

 

大人になると当たり前のように思えたり諦めたりしていることも、思春期付近の人たちには大変なことで、困ったり迷ったりするみたい。そんな時にこの本は、ちょっとした道案内、灯になりそうだ。

この物語の中の高校生たちは、恋したり、友達を気にしたり、それぞれのまっすぐなあるいはこんがらがった思いを抱えて、ぶつかったり逃げたりしながら、自分らしい道を模索している。

青春から遠く離れてしまった人も、もし見かけたら、手にとってみてほしい。きっと、甘くて辛くて懐かしい時間を味わえるから。

栞たちが歩き回るのが実在の駅であり場所であるため、山手線周辺をよく知っている人には、はっきりと想像できる点も楽しいのではないかな。

 

この本、表紙は女の子、裏表紙は男の子で、背表紙をはさんで背中合わせになっている。