『クワイナー一家の物語』
『大草原の小さな家』というアメリカのドラマを、昔、ところどころ見ていた。
ローラという明るい活発な女の子が主人公で、ローラの家族が、私が初めて知ったアメリカの家族像だった。
ローラの母さん、キャロラインが少女だった頃の物語が、この全7巻の本だ。
アメリカ・ウィスコンシンが舞台であるこのお話は、キャロラインの姉の手紙を元に創作された。
『ブルックフィールドの小さな家 クワイナー一家の物語(1)』
マリア・D.ウィルクス著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2001年
『十字路の小さな町 クワイナー一家の物語(2)』
マリア・D.ウィルクス著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2002年
シリーズ1作目は、キャロラインが6歳の1845年から始まる。
ゴールドラッシュが1849年。
アメリカの独立宣言が1776年。
独立宣言から70年足らずで、西部開拓時代の始まりのあたりだ。
その頃は、夢のある時代だったけれど、実際の生活はとても厳しいものだったことが物語には描かれている。
早霜などで野菜が収穫できなければ、冬の間の食料が乏しく、命にかかわってくる。
当時の冬の厳しさを知ると、クリスマスのお祝いというのは人々の心に灯をともした、現代よりもずっと価値のある行事だったのではないかと思えてくる。
また、当時の学校は、夏の間は女の子と小さい子、冬の間は大きい男の子、と、分かれて通っていたそうだ。それは、大きい男の子が夏の間は学校に行けないぐらい農作業で忙しかったから!
一つ一つのお話に、当時の生活の様子や子供達の成長が、丁寧に描かれている。
『森の小さな開拓者 クワイナー一家の物語(3)』
マリア・D.ウィルクス著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2002年
『コンコードヒルの上で クワイナー一家の物語(4)』
マリア・D.ウィルクス著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2003年
一年間が一冊の本になっているため、4巻でキャロラインは9~10歳になる。
キャロラインは5歳のときに父親を亡くし、母親と兄弟たちとでなんとか生活してきたが、立ち退きを強いられたり、農業を続けることが難しかったり、と、さまざまな困難に直面する。
しかし、希望を失わない明るい気持ち、そして実際に行動に移す強さ、助けてくれる友人たちとの絆、そういったもので、困難に打ち勝っていくのだ。
本を読みながら、キャロラインと一緒に時代を味わってみるのは楽しい。
『せせらぎの向こうに クワイナー一家の物語(5)』
シーリア・ウィルキンズ著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2008年
キャロライン11~14歳。
この巻でチャールズ・インガルスが初登場。
1851年、キャロライン11歳の夏が終わろうとする頃に、バイオリンの少年と出会う。
表紙の絵がまたまた素敵じゃないですか!
ドラマを見て、この二人をずっと前から知っていたので、
「へぇ、こんな風に出会ったのね」と、なんだか家族の昔話のようにも感じられた。
この巻の中には、子供達が読んでいる本として、『白鯨』や『ジェーン・エア』が出てくる。現代の私達からすればちょっと難しい古典の域に入る本を、当時は子供達がわくわくしながら読んでいたのだー!
また、チャーリー・インガルスを通して、バイオリンの奏でる音楽が、当時の人にとってどんなに明るく楽しく貴重なものだったのかが、よくわかる。
この巻から作家が変わっているが、シリーズの持ち味は継続されている。
『湖のほとりの小さな町 クワイナー一家の物語(6)』
シーリア・ウィルキンズ著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2009年
キャロライン15~16歳。1855年。
田舎の家を出て、湖のほとりにある町の親戚の家に下宿し、女子大の学生になる。
港のあるきらびやかな大都会、ミルウォーキーでの生活だ。
勉強、友達、舞台、舞踏会、ドレス、誕生日、クリスマス。卒業式の作文。。。
特に卒業式では、私には、まるでキャロラインが自分の娘のように感じられ、よくがんばったねぇと思わず涙ぐんでしまった。いつのまにかキャロラインが大好きになっていた。多分、訳者さんも、キャロラインが大好きだと思う。あたたかい。
港町でのさまざまな経験からキャロラインが成長していく姿を、この本を読みながら、見守ることができる。
あるいはキャロラインと共に体験し、わくわくすることも。
訳者あとがきに地図付で解説が書かれていることもありがたい。
『二人の小さな家 クワイナー一家の物語(7)』
シーリア・ウィルキンズ著 ダン・アンドレイアセン画 土屋京子訳 福音館書店 2010年
キャロラインが女子大を卒業してからのお話。
町の学校で教師となったキャロラインの勇姿を楽しむことができる。
あぁ、あの小さかったキャロラインがこんなに立派になって!!と、7巻目にもなると、私は、すっかり親の気持ちで見守っていた。6歳の小さな女の子の頃から、彼女を見てきたのですからね。
キャロラインの恋については、ハッピーエンドであることはお決まりなのだけれど、開拓時代の若い人たちがどんな風に知り合って仲良くなっていったのか、新生活を始めるとはどんな風だったのか、などの点も、まるでタイムスリップしたかのように楽しむことができる。
登場人物の生き生きとした描写と、情景を思い描けるほどの丁寧な描写で、あっと言う間に読み終えてしまった。
シリーズを通して
児童書ではあるが、アメリカに関する知識も興味もない児童が読むには難しいかもしれない。
アメリカの歴史や文化等、ある程度の知識や興味がある大人が読めば大いに楽しめる良書。
『大草原の小さな家』を好きだった方には、「母さん」の昔の話をぜひ楽しんでいただきたい。
追記
7巻訳者あとがきより
キャロラインのおかあさんシャーロット・タッカーの子供時代を描いたシャーロット・シリーズ全四巻がアメリカで出版されています。
1. Little House by Boston Bay
2. On Tide Mill Lane
3. The Road from Roxbury
4. Across the Puddingstone Dam
キャロラインのおばあさんマーサ・モースがスコットランドで過ごした子供時代を描いたマーサ・モース・シリーズ全四巻も出版されています。
1. Little House in the Highlands
2. Down to the Bonny Glen
3. The Far Side of the Loch
4. Beyond the Heather Hills
メモ。
1839-1924 キャロライン・レイク・インガルス(米・本書の主人公)
1866-1943 ビアトリクス・ポター(英・ピーターラビット)
1867-1957 ローラ・インガルス・ワイルダー(米・大草原の小さな家)
1874-1942 ルーシー・モード・モンゴメリ(加・赤毛のアン)
1915-2008 ターシャ・テューダー(米・絵本作家)