『月の笛』
『月の笛』 武鹿悦子 作 東逸子 絵 小峰書店 2006/10/10
透明感のあるリズミカルな文で描かれた、力強く幻想的な物語。
文章、というより、日本語が流麗で、その表現力に心がざわざわしてしまった。
子供の頃、新しい本やら新しい国語の教科書やらを読むと、知らない表現に出会って心がざわめいた、あの感覚を久しぶりに味わわせてくれたのだ。
どんな方が書いているのか調べてみた。
武鹿悦子さんは、1928年生まれの88歳。
誰もが知っているであろう「きらきら星」の日本語詞を書かれた人だ。
詩集、絵本、児童文学、翻訳など、何十冊もの本を出版、数々の賞を受賞。
『月の笛』は77歳のときに書かれたもの。
主人公は男子小学生、潮(うしお)。
不思議な空き家で出会った幽霊の頼みで、千年の時を越え、月の笛を探す旅に出る。
頼る人のいない千年前の世界で、出会いと別れを繰り返しながら、潮は笛を探す。
人と人とのつながり、「縁」って不思議なものだ。
誰かと出会い、お互いに影響を与えあう。
一緒に過ごしたり、離れたり。いつも目の前にいたり、遠く会うこともなかったり。過ごす時間も絆の濃淡も、人それぞれ。
そんなさまざまな縁で誰かと自分が結ばれて、自分の人生が形作られていく。
潮のような特別な縁の体験は、どんな人生を形作っていくのだろう。
この物語を読んで千年の時を越える疑似体験をした子供達は、どんな縁を感じるのだろう。
物語は余韻を残すエンディングで、前を向いて生きていこうとする潮にエールを送りたくなる。
東逸子さんの表紙・挿絵も物語世界によく合っていて素晴らしい。