『マキの廃墟伝説 ホーンテッド・シティー物語』
『マキの廃墟伝説 ホーンテッド・シティー物語』
あたたかい人情味のあるストーリー、わくわくエンタテイメント作品。
不思議+ちょっと怖い+謎解き+人情=最強の児童向け小説かも。
作者の山中恒さんは、1931年生。
大林宣彦監督の映画『転校生』『さびしんぼう』等の原作小説の作者です。
奥付の作者紹介欄の肩書きは、「児童読み物作家」となっています。
文学ではなく、読み物。それは山中氏のこだわりだそうです。
戦前生まれの作家さんの作品には、気骨があるというのでしょうか。
展開の面白さの他に、芯が強くまっすぐで、あたたかな何かがある気がします。
山中氏は1950年代から長い間、数多くの児童向けの読み物を発表しています。
さて。
この本の主人公は、北村マキ、小学五年生。
交通事故にあい、頭を打って入院したのは夏休みの始めのことだった。
目が覚めるまでに一週間もかかり、なんだか一部記憶喪失のようだ。
しかし、マキは、ホーンテッド・シティのことを思い出す。
そこは、死んだ人の魂が行く場所。
死にかけて生き返ったマキは、ホーンテッド・シティの特別自由市民になった。
この世の人でありながら、同時にホーンテッド・シティの市民でもあるのだ。
二つの世界を行き来できるマキに、特別な任務が与えられる。
マキがかかわる四つの事件。
・白壁病院伝説
・梅見が丘幽霊住宅
・鳴瀬小学校集団失踪事件
・サナトリューム・リリーハウス
マキは、死者と話せる小学生という特権を生かし、小学生である不自由さを乗り越え、事件を調べて解決しようと奮闘する。
謎解きの面白さいっぱいであり、人の心の暗闇を覗き見る怖さもある。
さすがは大御所の作品で、安心して楽しく読み進めることができる。
私がちょっと洒落てると思ったのは、従来なら「呪文」と呼ぶような言葉を、
「パスワード」と呼んでいるところだ。
パスワードで行ける、死者の街、ホーンテッド・シティ。
それはまるで日常の一部のような、ゲームのような明るさだ。
軽く読んで、ああ楽しかった!と終われるのに、後になって、ふと思い出す。
押し付けがましさが全くない、コミックみたいな本だ。
スカイエマさんの表紙絵や挿絵も雰囲気ぴったりで素晴らしい。
本が好きな子はもちろん、苦手な子でもあっさり読めてしまうのではないかな。
山中恒氏の最も新しい作品、おすすめです。