『美乃里の夏』
美乃里の夏
五年生の美乃里の最悪の日から、この物語は始まります。
夏休みも近いある日のこと。
美乃里は、気づかなければよかったことに気づいてしまいます。
自分の仲良しの友だちと、自分の好きな男の子が、どうやら・・・。
あるある。
大人でもそれはイヤな感じ。
そんな日に、美乃里は、校庭の水飲み場で不思議な男の子と出会います。
夏休みに入り、その男の子と美乃里は、銭湯の掃除を手伝うことに。
木島の湯のおじいさんと、美乃里と、実くん、実くんのおばあちゃん。
最初はぎくしゃくしていた関係が、銭湯の掃除をして一緒に過ごすうちに、少しずつ変化していきます。
銭湯復興プロデューサー兼アイドルの湯島ちょこさんが、「人生でつらかった時に銭湯で救われた」と言っていました。少し意味合いは違うかもしれませんが、この本の銭湯もまた美乃里を救っていることは確かです。
銭湯の掃除を手伝うかわりに、二人は一番風呂に入ることができ、お昼ごはんは木島さんが作ってくれます。
ちゃぶ台、スイカ、揚げだし豆腐、花火、浴衣。日本的な夏の情緒たっぷりです。
木島さんは戦争で負傷しているので、これは昭和の頃のお話のようです。
どこかノスタルジックな空気に満ちています。
夏にも終りがやってきます。
が、銭湯の壁に描かれた絵の謎が、解かれたようでいて、まだ謎なのです。
銭湯のおじいさんの人生は対象読者には謎のままでいいのかもしれませんけどね。
日常の小さな出来事や淡々と見えることの中にも、大切なものが隠されていることがあると、気づかせてくれる本です。
何かを失くし、新しい何かを見つけ、何かを乗り越え、少しずつ強くなって、大人になるんですね。
登場人物全員がしあわせでいて欲しい、なんて、本を閉じてから思いました。